文章の表記統一。漢字を増やして硬質に、かなをふやして軟らかく

執筆

ライティングにおいて、表記の統一は基本中の基本とされる。

そこで、共同通信の「記者ハンドブック」などを表記の基準にしよう、というのがよく言われる話だが、ここでは、開く(カナ表記にする)/閉じる(漢字表記にする)の基準の作り方について考察してみたい。

閉じる言葉の多さで文章の硬軟を調整する

記者ハンドブックで説明されるのは標準的な、新聞などで使われる表記だが、雰囲気を重視した小説などでは、漢字を多用したりして独特の表記ルールを採用することもある。

例えば、「五月蠅い」のような当て字を使って難しげな漢字の密度を上げると、全体的にものものしい感じになる、「真っ直ぐ」は「真っすぐ」が標準的な表記だが、「直」の字をあえて使うことで、シャキッパリッビシッとした雰囲気を強められるかもしれない。記者ハンドブックでも、文章の硬軟や文脈などに応じて工夫するのも大事だよ、といったことが書かれている。

一方で、漢字を減らした文体もある。私は「ほぼ日文体」と呼んでいるが、「ほぼ日刊イトイ新聞」では、一般には閉じる用語をけっこうひらいている。特に顕著なのが「つくる」「なに」あたり。

閉じる品詞、開く品詞

日本語は、この記事の末尾にまとめた11の品詞に分類されるという(参考:デジタル大辞泉)。一般には、名詞、代名詞、動詞、形容動詞の4つの品詞を適宜閉じて、ほかの多くは開くことになる。

主に副詞から、漢字が複雑でなく一般的によく使われ、意味もそのものであるものは閉じられることが多い、と言えそうだ。「常に」「決して」(副詞)、また「例えば」(接続詞)とか。

「大した」(連体詞)、「大層」(副詞)、「~の様だ」(助動詞)のような書き方をすると、かなり硬め、または中二病めいている、といった印象になる。小説など書く際には、主人公の口癖とか、印象的な言葉を閉じるようにするといいのかもしれない。「度し難い」とかなんかそういう感じで。

なお、述語としての動詞「言う」は閉じても、「というわけで」「~だという」のように、動詞本来の意味で使わないケースでは開く、とすることが多い。

「ほぼ日文体」的な表記は、基本的には漢字1文字の動詞や形容詞を開いているのだと思う。ただ、「つくる」はかなり徹底して開いている一方で「思う」はほぼ開いていないので、開く用語の選定には何らかの思想があると思われる。

漢字にした箇所は文章の中で目立つが、目立たせる必要のない、比較的重要でない表現を開くようにしているのかもしれない。「なに」を開くのは、この理由によると思う。

「つくる」という行為を、ほぼ日が重要でないと考えているわけでもないだろう。「つくる」は「作る」のほか常用外の「創る」という字も当てられるので、クリエイティブな意味もほんのり含ませたいけど「創」を当てるほど気取りたくないなー、といった意図もあっての「つくる」かもしれない(「造る」は明らかに用途が違うので除く)。

ところで、「ほぼ日 ひらがな」で検索したら、こんなツイートが検索結果のトップに出てきた。

開く表記が多い文章は、軟らかいのを通り越して幼稚な、つまり、読み手を幼稚な存在として扱っているような印象を与える可能性もある。「ほぼ日」や糸井氏も活動歴が長く、ヘイトを集めたことも何度かあっただろう中で、大人向けでこうした文体のメディアとして存在感がやたらとある「ほぼ日」ブランドのマイナス面が目立つことが増えているようにも感じる。

■11の品詞

名詞
自立語で活用がない。文の主語となりうる。
例:りんご、鈴木、アメリカ

代名詞
自立語で活用がない。特定または一般の名称を用いず、人・事物・場所・方向などを直接に指示する語。分の主語となりうる。
例:あれ、彼、そこ

動詞
自立語で活用がある。事物の動作・作用・状態・存在などを表す語。単独で述語になりうる。言い切りの形が一般に「ウ」段の音で終わる。文語のラ行変格活用に限り、「イ」段の音で終わる
例:走る、食べる、寝る

形容詞
自立語で活用がある。物事の性質や状態などを表す語。単独で述語になりうる。言い切りの形が口語では「い」、文語では「し」で終わる。
例:白い、うまい、うれしい

形容動詞
自立語で活用がある。物事の性質や状態などを表す語。単独で述語になりうる。言い切りの形が口語では「だ」、文語では「なり」「なり」で終わる。
例:静かだ、不満だ、堂々たり

連体詞
自立語で活用がない。体言を就職する以外には用いられない。
例:あの、あらゆる、たいした

副詞
自立語で活用がない。主として単独で続く用言を修飾する。状態を表す「状態副詞」、性質や状態の程度を表す「程度副詞」、叙述のしかたを修飾し、受ける語に一定の言い方を要求する「陳述副詞」の3種に分類される。程度副詞は、体言やほかの副詞を修飾することもある
例:はるばる、しばらく、ゆっくり(状態副詞)
いささか、いと、たいそう(程度副詞)
あたかも、決して、もし(陳述副詞)

接続詞
自立語で活用がない。先行する語や文節・文を受けて後続する語や文節・文に言い続け、それらの関係を示す。
例:だから、しかし、また

感動詞
自立語で活用がない。主語にも述語にもならず、ほかの文節とは比較的独立して用いられる。
例:ああ、おい、はい

助動詞
付属語で活用がある。用言やほかの助動詞に付いて叙述を助けたり、体言やその他の語に付いて叙述の意味を加えたりする。
例:る、られる、させる、べきだ、ようだ、らしい、です

助詞
付属語で活用がない。常に自立語または自立語に付属語の付いたものに付き、その語句とほかの語句との関係を示したり、陳述に一定の意味を加えたりする。
例:が、は、を、て

※体言:名詞と代名詞
※用言:動詞と形容詞と形容動詞

※自立語:単独で文節を構成できる
※付属語:単独で文節を構成できない

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