青崎有吾という天才作家を見つけた

雑記

ここ数年間、ジュブナイル小説の好みに合う作品が、なかなかないな…と思っていた。

昨今の10代前後の読者を想定した小説はもっぱらライトノベルのカテゴリに入るのだと思うが、ラノベは味が濃すぎて食べられない。かといってベテラン作家が10代の少年少女を主人公に据えた作品を読んでみると、なぜか描写や台詞回しのしっくり来ないものが多くて、これまた辛い。

ところが、青崎有吾の作品は奇跡的に素晴らしくて最高に楽しく読める。謎多き天才であり探偵役であり重度のアニオタであり皆に「駄目人間」と評される裏染天馬(男子高校生、学校施設内に居住)は、推理を披露する場面以外のほぼ全てで奇行を連発しているのに一切の臭みがなく、読んでいて体が痒くなったり寒気を覚えたりすることがない。

文章がどこまでもクールかつドライで、助手役であり狂言回し役でもある袴田柚乃(女子高校生、女子卓球部員)の描写も最小限にしてとても爽やかだ。無意味に性的な描写や、恋愛感情を変な具合に匂わせる描写などは一切ないが、いざ恋愛などを描く場面ではとても丁寧な姿勢を感じる表現がされて、ああ、いいな、と思わせてくれる。

天馬の台詞には随所にアニメネタが入るが、私には全く理解できない(アニメキャラっぽい名詞や声優っぽい人名であることは何となく分かるが、知らない)。しかし、これらは知らなくても楽しめて、知っていればもっと楽しめる(のだと思われる)ようになっていて、理解できなくても問題ない。隅から隅まで天才的だと思う。

ところで私は、ジュブナイル小説を特別好んでいるわけではない、と思う。でも、ジュブナイルもの(ここでは、10代の少年少女に向け、同年代ぐらいの主人公たちを登場させたもの、と定義しておく)って誰もが「わりと好き」だし、作家にとっても普遍的な魅力のあるものなんじゃないかと思う。

誰にとっても、10代は多感な時期であり、いろいろな意味で思い入れも強くなる。だからこそ、イメージのズレが生じたり、好き嫌いが激しくなったり、高齢の作家が書くと昭和臭を隠せなかったりしてしまうのかもしれない。そんなことを思いつつページをめくっていたら、今出ている裏染天馬シリーズの4冊を読み切ってしまった。ほかのシリーズも買ってきます。

青崎有吾氏はミステリー作家であり、活躍している時代と、ミステリーとしてのカッチリとした構成や、解決偏の前に「読者への挑戦」をはさむ作風から、あらゆる書評で「平成/令和のエラリー・クイーン」と呼ばれている。

実は私はエラリー・クイーンをちゃんと読んだことがないのでアレだが、そんな浅いミステリー読みでも知っているようなビッグネームを背負わせることで、若い(本読みとして歴が浅い、という意味で)読者に敬遠されるようなことがなければいいなあと、思わなくもない。

ミステリーとして特にスゴいと感じたのは、デビュー作でもある「体育館の殺人」だった。重厚なつくりで読ませ、ところどころで唸らされる。一方で、短編集の「風ヶ丘五十円玉祭りの謎」は、人物描写やひとつひとつの作品の仕掛けが、とても好きだ。ミステリーを特に好まない方には、こちらをぜひおすすめしたい。

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