渋谷のオシャレめなカフェで食事をしていたら、隣の席の男女が「ウマ娘っていうコンテンツが今すごいんだって」という話を始めた。
2021年3月の、緊急事態宣言の合間のこと。ちょうどゲーム「ウマ娘」がどえらいセールスを叩き出して注目を浴び、アニメは第2期が大盛り上がりで完結、といった時期であった。
印象的だったのはその「ウマ娘」自体には微塵も関心がないことがわかる口調で、「今すごい」という現象を語りながらも、アニメやゲームそのものには話が向かない。男が「でもオタクにそんな財力あるのぉ?」とか言いだし、女は知らんがなという反応をして、彼らの話は終わった。
要は「スポーツもの」だから誰にでも楽しめる
アニメ「ウマ娘」はすごい作品だ。「萌え」とかいうのが流行って以降のアニメはどうも理解できず敬遠していたが、「ウマ娘」は楽しめた。
Amazon Prime Video等の定額見放題サービスで手軽にアニメが見られるようになり、分かったことがある。設定がいくら「競走馬の名前の付いた女の子がいっぱいいる」とか狂気じみた作品でも、ストーリーの構造がスポーツものみたいな誰にでも理解しやすいものであれば、理解できるし楽しめる。設定には、そのうち慣れて当たり前に受け入れられるようになる。人間の適応力ってすごいね。
という事実を、「女子高生が戦車に乗る」という設定の「ガールズ&パンツァー」で認識した。「戦車道」というわけのわからん架空のスポーツがテーマになっている「ガルパン」に対し、「ウマ娘」の場合だと要は“かけっこ”がテーマなので、話はよりシンプルで、それだけにアツくなれる。
言わずもがなだが、バックグラウンドにリアル競馬史があるのも超強い。
ゲーム「ウマ娘」の高い完成度
ゲームの「ウマ娘」は、発表だけされて長らくリリースされていない、てな噂だけは耳にしていただのだが、ようやくリリースになり、周りのゲームする人たちの評価がやたらと高いので手を出してみた。
確かによくできていて、おもしろい。自分がトレーナーとなってウマ娘を育成し、レースを制覇していくという内容なのだが、勝ったときは驚くほどに嬉しいし、負けたときにはさらに研究して勝ったるで! という気になる。実際の競馬をかなり高度にシミュレートしているそうで、いつの間にか競馬にも多少詳しくなっていた。
ウマ娘には「スピード」「スタミナ」「パワー」「根性」「賢さ」というパラメーターがあるが、スピードだけが高くてもレースで勝てるわけではない。レース(競馬)は純粋にタイムを競うのではなく、ほかの出走バとの駆け引きだ(他人の受け売りです)。
そのため、有利なコース取りができるよう「賢さ」を上げることも大事だ。終盤に後ろから飛び出す「差し」ウマなどは、加速力やバ群を抜ける突破力に影響する「パワー」が重要になる…のだそうだ。
そんなこんなで、これくらい(↓)まではやり込んだ。「タウラス杯プラチナ」と「ジェミニ杯プラチナ」は、ゲーム内のレースイベントで決勝レースに進出し、3人1組のそのレースで1着にならないと貰えない称号なので、単純計算で9人に1人以下しか持っていないはず。
プレイするほど「失敗」が増える
でも、そろそろ疲れてきたので、次のレースイベントはそこまでやり込めない気がする。
いわゆるソシャゲは、要するに全体が小さな成果を積み上げていく「やりこみ要素」なのだと認識しているのだが、ウマ娘の場合少し違って、積み上がらない「やり直し要素」という感じがある。
抽象的にいえば、ウマ娘は次のような要素を持つゲームだ。育成した強いウマ娘をレースに出すため、一度80点のウマ娘を育成できたら、次は80点以下では成功とは言えない。81点が出たら81点、90点が出たら…と、「成功」の水準は徐々に上がり、要するにプレイすればするほど「失敗」の率が上がる。いうなれば「何度タイムリープしても失敗」の世界になっていく。
こういう現象を回避する方法は2つあると思う。1つは、新しい育成対象のウマ娘や育成を強力にサポートするウマ娘を入手すること。ただ自分の場合、ある程度のレベルまでは揃ってしまったし、次のレベルに行くには排出率3%のSSRサポートを複数枚揃えないといけないという、大変ハードルが高いところに来てしまった。
いわゆる「課金」でアレしても、単に成功の水準が上がるだけでプレイ体験は本質的に変わらないと思えるので、あまり課金する気にもならない。難しい。
もう1つは「成功」のベクトルを変えること。これまで80点の育成結果は長距離レース向けだったとすれば、短距離レースのイベントをプレイすることで、短距離向け80点も成功となる。しかし、これもやり尽くしつつある感がある。
最近は、10~20回の育成で1回ぐらい「まあまあ」以上の成果を得られる感じなのだけど、1日に3~5回程度育成をやるとしたら、数日に1回なんだよな。それ以外は単にションボリしながらアプリを閉じる。これに、楽しさが感じられない。
成功でない育成にも「因子」という後に繋がる=積み上げになる要素があるといえばある。だが、いい因子が得られる確率は極めて低い(だいたい1~2%ぐらいになるようだ。「いい因子」の定義は省く)。
ということで、どうも自分にとってはやり込めばやり込むほど楽しくない時間が増えるという状況で、これより先はちょっとできないかもなーという感触がある。
このあたり、“かけっこ”がテーマであるというシンプルさのネガティブ面である気もする。おそらく、リアル競馬は馬の寿命(レースに出られる期間という意味で)があり、そこに多くのドラマがあるのだろうけど、ウマ娘にはそれがないからなあ、少なくとも現状のシステムでは。
とはいえ、ちょっとした何かがあれば楽しめると思うし、根本の部分はよくできた楽しいゲームなのだと思ってはいる。
ウマ娘に課金しているのは誰なのか?
冒頭の男の話ではないが、ウマ娘に課金しているのはどういう層なのか? というのは気になっている。競馬ファンのプレイヤーが一定の割合でいるが、どうも競馬ファン層はカネの使い方のレベルが普通のソシャゲプレイヤーとは違うのではないか? という気がしてならない。
見えているサンプル数は少ないけど、なんかこう、「推しウマ」が出れば息をするように天井し、性能の高いウマがいれば当然のように天井する、みたいな人が結構多い気がする。「天井」というのは簡単に言うと、ガチャを一定回数回すことで好きなヤツを1つ自由にもらえるシステムのこと。「ウマ娘」の場合は6万円分回すことで1天井できる。
ゲーム「ウマ娘」は、競馬という競技そのものや競馬をとりまく文化、さらには競走馬たちへのとても強いリスペクトが感じられる作品だ。が、それだけでなく「競馬ファン向けにこういうゲームぶつけたら絶対稼げる!」みたいな見込みもあっての企画だったとしたら、すごいなあ、頑張ったなあと思ってしまう。